専業主婦の離婚準備
専業主婦の離婚準備
専業主婦だからといって、無理して夫婦関係を続けないといけないということは決してありません。
離婚することによって夫の支配・束縛から逃れることができてよかったと、実感なさる方も多くおられます。
ただし、離婚に向けて話を進める中で、生活や経済的な環境が以前とは大きく変化する可能性があることを念頭に置く必要があります。
そのため、離婚に向けて大きく舵を切る前に、準備を整え、離婚後の生活の見通しを十分に立てておくことがとても重要です。
以下では、離婚のタイミングや、離婚に向けた準備などについて解説します。
専業主婦が離婚を求めるタイミング
専業主婦の方が離婚を決断なさるタイミングは様々ですが、夫婦関係に不満を抱かれていても、お子さんの生活環境や、(離婚後、旧姓に戻すことを考えておられる場合には)姓が変わってしまうことへの配慮などから、お子さんの進学、卒業などの節目のタイミングを見据えて行動に移される方が多いという印象があります。
ただし、お子さんの進学などのタイミングを待っていられない、あるいは、待つべきではない場合もあります。
夫の収入や周囲のサポート体制などによっても変わってくるため、ケースごとに適切なタイミングを見極める必要があります。
離婚に向けて話を進めるタイミングを迷っておられる方は、弁護士への早めの相談をお勧めします。
専業主婦が離婚を求める場合、仕事を始めるべきか?
これまで専業主婦として家庭を支えてこられた方にとって、社会に出て定職に就くことは、高いハードルに思われることでしょう。
もっとも、離婚後の生活を考えると、できれば何らかの仕事に就いておかれることが望ましいです。
離婚に先立ち別居をする場合は、離婚が成立するまでは、夫から婚姻費用を支払ってもらうことができますが、夫がよほどの高所得者でない限り、婚姻費用だけで生活を維持することは容易ではありません。
また、お子さんがいれば離婚後も養育費を求めることができますが、婚姻費用よりもさらに金額は少なくなりますし、お子さんが社会に出た後は、養育費の支払いを受けることもできなくなります。
さらに、婚姻費用や養育費の金額は夫婦それぞれの収入の額によって決まるため、自分が収入を得ると婚姻費用や養育費の金額が低くなってしまうことを懸念して仕事に就くことを躊躇する方もおられます。しかし、専業主婦で現実には収入がなかったとしても、病気や、幼いお子さんを養育しなければならないといった、仕事に就くことが現実に難しいような具体的な事情がない限り、婚姻費用や養育費の計算において、少なくともパート程度の収入を得る能力があるとみなされます。
このように、実際には収入がなかったとしても、婚姻費用や養育費の計算の際には一定の収入があると仮定されるため、仕事をしない方が有利になるということもありません。
離婚を見据えるのなら、夫の収入だけを頼りにするのではなく、ご自身も何らかの仕事に就いて、収入を得ておかれる方が無難です。
もし、親族や友人に何らかの伝手がある場合には、その伝手を頼ることを考えてみてもよいでしょう。
むろん、待遇が良いに越したことはありませんが、待遇にこだわる余り、見合う仕事がなかなか見つからず、離婚を切り出すタイミングがどんどん遅くなってしまうと本末転倒です。
離婚を決意なさったら、できるだけ早く仕事について検討なさることをお勧めします。
専業主婦が離婚を求める場合に把握しておくべきこと
①夫の収入
婚姻費用や養育費は、いずれも夫の収入をベースに計算されます。
離婚までや、離婚後の生活について、より具体的なイメージを持つためにも、夫の収入を把握しておくことが重要です。
夫が給与所得者や会社役員である場合、前年度の源泉徴収票に記載された所得金額をベースに計算されるため、前年度の源泉徴収票を確認することが可能であれば、コピーや写真をとっておかれることが望ましいです。
夫が自営業者である場合は確定申告書に基づき収入を計算することになります。計算方法はやや複雑ですが、ご相談いただく際に確定申告書のコピーや写真を確認させていただければ、大まかな金額を算出することは可能です。
自営業者の場合、年によって所得が大幅に変動することがあります。
そのような場合には、前年度だけでなく、直近数年の平均額によって収入を計算します。
そこで、夫の直近数年間(3年から5年)の確定申告書のコピーや写真をとっておかれることが望ましいです。
②夫名義の財産
財産分与として夫から支払いを受けることのできる金額を知っておくために、夫名義の財産をできるだけ把握しておくことが望ましいです。
不動産や預貯金だけでなく、貯蓄性のある保険や個人年金、会社で積み立てている財形貯蓄、株式・有価証券なども、財産分与の対象になります。
離婚を切り出した後は、夫が自身の名義の財産を自らの管理下に置き、把握できなくなる可能性もあるため、離婚を切り出す前にできるだけ把握しておくことが望ましいです。
通帳があれば、通帳のコピーや写真を撮っておかれるとよいでしょう。
また、キャッシュカードの情報から口座が特定できる場合もあるため、通帳を見ることができない場合には、キャッシュカードの写真を撮っておかれるとよいでしょう。
③結婚前からの財産や結婚後親族から贈与された財産
ご自身の結婚前から有している財産や、結婚後に親族から贈与された財産は、特有財産と呼ばれ、財産分与の対象にはなりません。
ただし、結婚前から有している財産や結婚後に親族から贈与された財産であることは、ご自身で証明する必要があります。
専業主婦で収入を得ていなければ、財産が形成されることはないため、特有財産であることを証明することは、それほど難しくないと思われるかもしれません。
しかし、結婚後に口座への入金や出金がある場合、婚姻前の財産や親族から贈与された財産が、夫婦で築いた財産と混然一体となり、どこまでが特有財産であるかが、必ずしも判然としないことがあります。
この点、特有財産であることをきちんと証明できなければ、夫婦共有財産とみなされてしまうため、注意する必要があります。
結婚前からの通帳がすべてそろっていれば証明できる可能性もありますが、結婚期間が長期にわたる場合、通帳が紛失されていることもあります。
金融機関に問い合わせれば取引明細書を取得することができますが、多くの金融機関では、10年以上前の明細書は出せないという運用になっています。
そのため、結婚したのが10年以上前になると、通帳がない限り、特有財産であることの証明が難しくなります。
結婚からもうすぐ10年に差し掛かろうとしている場合には、早めに通帳の有無を確認し、必要であれば、速やかに明細書を取得しておく必要があります。
専業主婦は親権者になれない?
「専業主婦だと親権をとれないのですか?」という質問を時々受けます。
離婚してほしいと伝えたものの、夫から「収入がないから、裁判になれば親権者にはなれない」などと言われ、不安になり、このような質問をなさった方もおられました。
専業主婦で収入がないからといって、親権者になれないということは全くありません。
親権者の判断においては、一般に、それまで子供とどちらが主体的に関わってきたか、また、その関わり方に問題がなかったかという点が特に重視されます。(お子さんが10歳を超える場合には、お子さんの意思も重視されます。)
専業主婦の方の場合、共働きの家庭と比べて、お子さんと関わる時間は必然的に長いでしょうから、その点では有利といえます。
確かに親権者の判断においては収入も考慮されますが、お子さんとの関わりほどには重視されません。
なぜなら、自身には十分な経済力がなかったとしても、夫から養育費が適切に支払われれば、少なくとも子どもの養育に大きな問題は生じないはずだからです。
専業主婦の離婚と財産分与
専業主婦の家庭では、夫名義で財産が形成されていることが一般的です。
ご自身が働いていないにもかかわらず、夫名義の財産について分与を求めることができるのかと思われるかもしれませんが、離婚実務においては、専業主婦であった方も、家事や育児などを通じて夫の資産形成に寄与していると評価されます。
そのため、婚姻期間中の大半の財産が夫の名義で形成されている場合であっても、原則として、婚姻期間中に形成された財産の2分の1について分与を求めることができます。
専業主婦の離婚と年金分割
年金分割は、将来支給される厚生年金や共済年金の計算の基礎となる納付額(標準報酬と呼びます)のうち、婚姻中に築かれた部分を、妻と夫の金額が均等になるように分ける(=年金事務所の記録を書き換える)制度です。
専業主婦の方の場合、通常は夫の方が多く年金を納付していると考えられますので、離婚の際、年金分割についても忘れず手続をとっておかれる必要があります。(離婚から2年を過ぎると、年金分割を請求することができなくなります。)
ところで、専業主婦であった期間によって、選択すべき年金分割の方法が異なることに注意が必要です。
平成20年4月以降、夫の扶養に入っていた期間に納付された年金については、夫との間で合意をせずとも、当然に年金分割を求めることができます。
一方、平成20年4月以前に専業主婦だった時期がある方や、結婚後、専業主婦になる前にご自身も働き、厚生年金や共済年金を収めていた時期がある方が、その期間の年金も含め均等に分けるためには、夫と年金分割について合意しておく必要があります。(合意を得られない場合には、家庭裁判所に決めてもらいます。)
なお、年金分割については、こちらのページで詳しく解説していますので、ご覧ください。
専業主婦の離婚と公的な支援制度
ひとり親家庭になれば、行政から様々な支援を受けることができます。
例えば、京都府においては、児童扶養手当のみならず、医療費助成、高等職業促進給付金、母子家庭奨学金などが用意されています。
ひとり親支援については、京都府のホームページをご参照ください。
このような公的な支援を受けることによって、離婚後の道が開ける可能性もあります。
ご自身には収入がないから、離婚を思いとどまらなければと我慢なさっている方は、このような支援制度も含めご検討いただくことをお勧めします。
最後に
専業主婦の方にとって、経済力の差を考えると夫は、逆らうことのできない存在に思えるかもしれません。
それ故、夫からの理不尽な言動に長年耐え忍んできたという方もきっとおられるはずです。
そのような夫と対峙して離婚までこぎつけることは、途方もない道のりに思えることでしょう。
しかし、離婚というゴールやその先の生活を見据えて適切に準備を重ねることができれば、離婚は、思われるほど高いハードルではありません。
専業主婦は、夫の従属的な立場に立たされがちですが、自立することによって、自身の生き甲斐を見つめ直すことができたとおっしゃる方もおられるように、課題を一つずつクリアし、自信をつけることによって、最終的には、夫と対等な立場で向き合えるようになるはずです。
ただし、夫婦関係に悩み、精神的に弱っておられる中で、ご自身の力だけで必要となる課題を発見し、クリアしていくことはお一人の力だけではきっと困難でしょう。
そのような方に寄り添い、知識やこれまでの経験を踏まえ、課題とそれを乗り越えるべき方法を適切にお示しすることが、私たち弁護士の役割です。
専業主婦で離婚を考えておられる方は、まずは一度弁護士にご相談ください。
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