相手方が医師の場合の離婚問題
財産分与の割合
夫婦のいずれかの名義の不動産や預貯金,保険(解約返戻金),有価証券,動産(貴金属,美術品など),自動車などが財産分与の対象となり得ることは,一般的なサラリーマンの場合と同様です。
ただ,相手方が医師である場合,高収入を得ていることが多いため,夫婦共有財産が多額になっていることが考えられます。
あなたも医師であって夫婦のいずれもが高収入である場合もありますが,他方で、あなたが家庭を切り盛りしていて専業主婦(主夫)やパート勤務などのため,ふたりの収入に格差があるケースもあります。
財産分与の割合については,2分の1ずつとするのが大原則とされていて,あなたの収入と格差がある場合でも,2分の1の財産の分与を請求できることが多いです。
ただ,医師のような専門性や特殊な能力・技能ゆえに高収入を得ていて,それによって高額の資産が形成されたと認められる場合は,この2分の1ルールが修正され,医師である相手方の分与割合の方が大きくなることもあります。
5:5ではなく、4:6、さらには3:7となれば、分与される財産は大きく減ることから、あなたの分与割合を少しでも高めるために,配偶者として,あるいは子どもの親としての貢献を説得的に主張・立証することが必要となります。
婚姻費用・養育費
別居中の生活費(婚姻費用)や離婚後の養育費を検討する際に,算定表と呼ばれる標準的な算定方式が存在し,家庭裁判所でも,基本的にはこの算定表・算定方式に即して,婚姻費用や養育費が算出されます。
協議でまとまらず,家裁で審判や判決を仰ぐとなっても,この算定表から金額が求められることから,協議や調停の段階で,この算定表に基づいて合意に達することも少なくありません。
この算定表では双方の収入を当てはめることになりますが,給与収入と事業収入によって見るべき数字が違ってきますので,注意が必要です。
開業医であるものの,医療法人にされていない場合は後者の収入になります。
両方の収入があるケースもあり,その場合は,一方の収入を他方の収入に換算してまとめて算定表を当てはめます。
また,この算定表は,給与所得者では2000万円,自営業者では1409万円までとなっていますが,医師の場合,それ以上の収入を得ているケースも少なくありません。
その場合,この上限とみなして計算することもありますが,算定表の元になっている計算式から算定することもあります。
また,お子さんを私学に通わせている場合などは,この算定表から導かれる数字に,その費用が上乗せ
されることがあります。
いずれにせよ,かなり高額の婚姻費用や養育費になることが多く,有利に離婚事件を進めるためにも,少しでも高額の婚姻費用や養育費を得るための努力・工夫を尽くすべきであると言えます。
医療法人の財産
相手方が勤務医ではなく,医療法人を経営している場合,医療法人名義の財産が存在します。
医療法人は,相手方とは別の法人格を有していることから,この医療法人名義の財産が財産分与の対象とされることは原則としてありません。
もっとも,医療法人の経営の態様によっては,その医療法人が実質的には個人の経営であると評価されて,形式上は医療法人の資産であっても,これを財産分与において考慮できるとした裁判例もあります。
医療法人の出資持分
また,平成19年4月1日以降に設立された医療法人では,医療法の改正によって出資持分を観念することができなくなったため,夫婦共有財産が拠出されて医療法人が設立・開業されたとしても,出資持分というものが観念されて財産分与の対象となることはありません。
他方,平成19年4月1日よりも前に設立された医療法人の多くには出資持分があります。
この持分は医療法人の社員が出資額に応じて取得するもので,この出資の原資が夫婦共有財産であった場合は,この持分についても財産分与を請求される可能性があります。
この持分については,定款の規定があれば退社の際に持分に応じて払戻しを請求することができます。
この出資の払戻しが,出資額の限度で認められるのか,あるいは出資した割合による払戻しが認められるのかについては争いがありますが,後者とする裁判例が多いようです。
また,退職金の規定を設けている医療法人があり,その場合は,支給前であっても,この退職金も財産分与の対象となり得えます。
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