親権と監護権
未成年の子どもがいる場合には、離婚するときは、どちらか一方を親権者として定めなければなりません。
1.親権とは?まず,「親権」とよく耳にしますが,親権とはどういう内容をもつものでしょうか? 少し詳しく説明しますと,親権は「身上監護権」と「財産管理権」の2つから成り立っています。 「身上監護権」は未成年の子どもに社会性を身につけさせるために監督・保護し、また精神的発達をはかるために配慮をすることを意味します。これには、こどもがどこに住むかを決めたり、子どものことを叱ったり、子どもが仕事に就くことを認めるようなことも含みます。 |
「財産管理権」は未成年の子どもが財産を持っているときにその財産を管理したり、法律行為について子どもを代理したりする権利のことです。
また、親権には、子どもの身分上の行為の代理権も含まれます。たとえば、子どもに代わって15歳未満の子どもの氏の変更や、養子縁組・離縁の代諾、相続の承認や放棄などを行います。
2.監護権とは?
「親権」とならんで「監護権」という言葉を耳にされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
監護権とは親権のうちの「身上監護権」のみを指し、子どもと日常生活を送り、世話や教育を行う権利・義務のことです。親権の中に監護権が含まれ
ているため、親権者が監護権者となることが一般的です。
しかし、何らかの事情で親権者が子どもを監護できない場合、夫婦で親権と監護権を分けることも可能となっています。
3.親権者はどのようにして定めるの?
それでは、この親権者はどのようにして定められるのでしょうか。
協議離婚の場合
協議離婚では,親権者をどちらにするかついても夫婦で話し合って決めることになります。
離婚することについては争いがないものの、どちらも親権を譲らないために協議離婚が成立しないこともあります。
調停離婚の場合
調停離婚では,離婚に関して取り決める内容のすべてについて双方の合意が得られなければ成立しないので、親権者についても両方が合意して定めることになります。
具体的には、調停条項のひとつとして、「未成年者○○の親権者を父(または母)である申立人(または相手方)であると定め、同人が監護養育する。」といった取り決めをします。
調停でも,どちらも親権を譲らなかったら離婚調停そのものが不成立となります。
裁判離婚の場合
裁判離婚では,裁判所が判決の中で父母の一方を親権者として定めます。
裁判離婚でも,どちらにを親権者とするかについては争いがない場合には,親権者はスムーズに決まりますが,親権について争いがある場合は、裁判所がどちらに親権を委ねるのが子どもにとって望ましいかを裁定することになります。
4.親権者を決めるときに重視される事情は?
(親権者を定める際に重視される事情)
・母性優先(子どもが乳幼児の場合)
・子どもの意向
・兄弟不分離
現在の監護状況
まず、現に子どもを監護養育している者が優先される傾向があります。「継続性の原則」などと呼ばれることもあります。
夫婦が別居していて一方の親のもとで子どもが特に問題なく生活している場合には、親権者を他方の親に認めることによって子どもをとりまく環境をいたずらに変更すべきでない配慮が働いています。
そのため、親権を失いたくない者が自宅を出て別居する場合、子どもを連れて行くケースが多いです。残された側も親権を主張しているときは、子どもを連れて行くことの了解を取らずに子どもを連れて別居することになるため、この別居を契機に、夫婦間の対立が一気に激しくなることが少なくありません。
また、別居状態になった後に、監護養育しない側が相手方の了解を得ずに子どもを連れ去るケースもみられます。しかし、このような行為は子どもの生活環境に意を払わない行動として親権者の判断では不利な事情とされます。
母性優先
つぎに、子どもがまだ乳幼児の場合は母親が優先される傾向にあると一般的にはいえます。
ただ、これは,「母親優先」ではなく「母性優先」であることに注意です。母性優先とあれる背景には,子どもは特定の養育者との間に愛着関係を形成し,その関係を基盤に周囲や自分に対する信頼感を形成していくので,子どもを一番身近で養育している人物との関係を壊すべきではないという考えがあります。なので、乳幼児であっても父親の方が子どもと接触している時間が多いなど、子どもの身の回りの世話を父親が主体的に行っていた場合は、父親が親権者と指定されることもあります。
また,父親の元にいても父親の親族(父親の母や姉)が子どもと母親的な関わりをしているような場合にも,父親が親権者に指定されることがあります。
子どもの意向
さらに最近は子どもの意向を尊重する傾向も強くなってきたと言われています。
法律上も、15歳以上の子どもについてはその陳述を聞くこととされているのですが、たとえ15歳未満であっても、中学生、さらには小学校高学年くらいになってくると子ども自身の考えも重要視されます。このくらいの年頃になると、子どもの意向と反対の親に親権を委ねても、子どもの理解がなかなか得られず、適切に親権を行使していくのが難しいと考えられます。
また、小学校の中学年・低学年であっても、子どもの意向を裁判所が参考にすることはよくあります。実際には家庭裁判所調査官という専門家が子どもと会うなどして子どもの話を聞くことがあります。もっとも、どちらの親と暮らしたいかなどとダイレクトに問うことはなく、またどちらか一方と暮らしたいと子どもが言ってもそれで親権者が決まるようなことはないと言われています。
兄弟不分離
また、子どもが複数いる場合、どちらか一方の親に子ども全員の親権を委ねることが多いと言われています。「兄弟不分離の原則」などと呼ばれることもあります。男の子と女の子がいるからといって「男の子は父親に。女の子は母親に。」ということにはなりません。
裁判所は,上記のような事情に加え,親子をとりまく様々な事情を勘案して親権者を指定します。
5.親権と監護権の分属
このように離婚の際にどちらか一方を親権者としなければならないわけですが、時に、親権者は一方の親としつつも監護権者を他方の親とすることがあります。さきほど親権には身上監護権と財産管理権があるとご説明しましたが、親権のなかの監護権を相手方に委ねるというものです。親権者と監護権者を分ける場合、実際には、父親を親権者、母親を監護権者とすることが多いです。
親権について争いがある場合、このように親権者と監護権者を分けることによって親権の問題を解決させて協議離婚する例がみられます。具体的には、母親が育てることには異論はないが、その子どもを父親の家業の跡継ぎにしたいような場合に親権と監護権を分けて帰属させることがあります。父親が親権を確保しているため、母親が再婚するようなことがあっても父親の意向に反して子どもが再婚相手の養子になることはありません。もっとも、子どもを実際に監護養育していない者が適切に親権を行使できるかについては疑問がなくはないところです。父親と母親の関係が良好でない場合は、監護養育のあり方、親権行使のあり方をめぐってかえってトラブルを招くおそれもあります。そのようなこともあって、裁判所は親権者と監護権者を分けることには必ずしも好意的ではありません。父親側が親権を争っている場合に、母親側が早く離婚したいがために監護権さえ確保できればと考えて親権を父親に委ねて協議離婚する例を時折みかけます。親権者の変更という手続きもありますが、変更はそう簡単には認められません。
ですので、親権者と監護権者を分けるにあたっては、それが子どもにとって好ましいかどうかを慎重に考える必要があります。