養育費
1.養育費の取り決め
離婚した夫婦間に未成年の子がいる場合,親権のない方の親はその子の養育に要する費用を負担する義務があります。例えば,妻側が子どもを引き取った場合は,夫側が養育費を支払う義務を負うことになります。
養育費の額などについて合意ができた場合は,証拠となりますので,書面で取り決めるのが一般的です。後ほど触れますが,不払いとなったときに直ちに強制執行ができるよう公正証書の形式を取ることも考えられます。養育費の額などをめぐって折り合いが付かなければ,やはり調停を申し立てることになります。申立ての詳細は,こちらの裁判所のウェブサイトをご覧ください。
調停でも妥協点がみつからず不成立となったときは,自動的に審判手続に移行し,裁判官(審判官)の判断を仰ぎます。
2.養育費の算定
養育費の額については,東京と大阪の裁判官が共同で研究して作成した「算定表」があります。調停や訴訟の場でもこの算定表が大変重視されています。以下の裁判所のウェブサイトなどでご覧いただけます。
この養育費の算定表には,子どもの数と年齢に応じて9つの表があり,双方の収入に応じて,(数万円の幅を持った)標準となる養育費月額が導き出されます。もっとも,この算定表は,「標準的な」額を「簡易迅速」に求めるためのものにすぎず,この表で算定された数字は絶対的なものではありません。例えば,養育費を支払う側が,養育費を受け取る側の住居費を負担する場合は,もちろん,その分は既払い分として差し引くことになります(ただ,支払う側の所有不動産で住宅ローンを返済する場合には,支払う側にとっては資産形成という側面もあることから,別の考慮も必要ではないかとされています)。
また,婚姻中に生活のための借金があり,養育費を支払う側がその返済をしている場合は,この負担も考慮されることになります。そのほかにも,私立学校に通う場合の学費の負担など,養育費を取り決めるにあたって難しい問題のあるケースが少なくありません。
話し合いや調停が難航する場合は,法的な見地から考え直すために弁護士に相談することも有用です。
3.養育費の増額・減額
当事者間で協議して,あるいは調停や審判で養育費の額が定めた場合でも,その後,事情に変更を生じたときは,養育費の増額や減額を請求することができます。
当事者間で話し合って合意に至れば問題はないのですが,折り合いが付かないときは,養育費の(増)減額を求める調停を申し立てることができ,調停がまとまらないときは審判を求めることもできます。
4.一方が再婚した場合,養育費はどうなるのか
養育費を取り決めて離婚した後,夫婦のいずれか(あるいは双方)が再婚するケースも多々あります。まず,養育費を受け取る側(ここでは母と仮定します)が再婚した場合,当然に,父の養育費の支払義務が消滅するものと誤解されている方もいらっしゃいますが,そんなことはありません。ただ,再婚相手の男性がその子と養子縁組をすると,その男性にも扶養義務が発生するため,元々の父の支払うべき養育費が減額される可能性が出てきます。話し合いでまとまらなければ,やはり調停を申し立てることになります。
他方,養育費を支払う側(ここでは父と仮定します)が再婚した場合,再婚相手の女性との間の子どもが生まれたときは,父はその子の扶養義務も負う結果,離婚した妻との間の子どものために支払う養育費が減額される可能性が出てきます。
このように,一方が再婚しただけでは,本来,養育費への影響はないのですが,再婚を契機にして,養育費の減額が問題となりうることになります。減額を求める場合あるいは減額を求められた場合に,法的に減額が認められるか,どの程度認められるかについては複雑な計算を要する場合もありますので,不安なときは弁護士に相談することをお勧めします。
5.養育費の不払い
残念ながら,いったん取り決めた養育費が支払われなくなることがよくあります。収入がなくなるなどの理由で「支払えなくなる」ケースもありますが,支払えるのに「支払わない」ケースも少なくありません。
調停や審判での養育費の取り決めを守らせる方法として,家庭裁判所に「履行勧告」や「履行命令」を申し出る制度があります。家庭裁判所に相手方が取決めを守るよう勧告してもらったり,命令を発してもらったりするのですが,相手方がこれらに応じない場合でも支払を強制できません(ただ,手数料は不要で,申し出も簡単です)。
そこで,多くの場合,強制執行の手続を取ることを検討すべきことになります。調停や審判で養育費が定められた場合は,直ちに強制執行ができます。
しかし,当事者間での協議で養育費の取り決めをした場合は,原則として,訴訟を提起するなどして判決を得た上でなければ強制執行ができません。ただし,この場合でも,公正証書で養育費を定めたときは,やはり直ちに強制執行ができます。
強制執行としては,相手方の不動産や預金,給与などの財産を差し押さえて,そこから満足を得る「直接強制」という手続を取るのが一般的です。ただ,この手続が功を奏するためには,不動産なら所在を,預金なら金融機関を,給与なら勤務先を,それぞれ特定する必要があります。
なお,強制執行の方法として,「間接強制」というものもあります。これは,一定の期間内に支払わなければ,別途,間接強制金を課すという警告(決定)を発することで,心理的圧迫を加えて支払を促すものです。
6.養育費の不払いのリスクの回避
相手方が公務員や大企業の勤務であれば,相手方としても支払を怠ると給与を差し押えられてしまうことから,養育費の任意の支払が続くことを期待できます。
しかし,相手方が職を転々としたり不安定な自営業者であったりすると,公正証書や調停調書があるといっても,それは文字どおり「絵に描いた餅」にすぎなくなるおそれがあります。
このような場合,養育費の不払いのリスクを回避することは簡単ではありません。取り決めをする際に相手方の親族に保証人になってもらうよう要求することも考えられますが,応じてもらえないのが通常です。
もし離婚する時点で相手方にまとまった財産があるのであれば,養育費を一括して前払いしてもらうことも検討に値します。この場合,相当な減額を余儀なくされることも考えられますが,不払いのリスクを確実に回避できるというメリットは大きいと思われます。相手方には一括払いの義務はないので,相手方の同意を得る必要があります。
7.養育費の一括払い
養育費の支払いが継続されるか不安がある・離婚後はできるだけ接触を少なくしたいという理由から、養育費の一括払いを希望される方が結構いらっしゃいます。
裁判や審判などで裁判所が養育費を決める場合は,一括ではなく毎月の支払として決められるのが原則です。養育費というのは,決める時点での双方の状況(収入など)にもとづいて金額を決めますが,子どもが成人するまで変更不可能なものではありません。収入や再婚など状況の変化によって,金額を増減させることが可能なものです。また支払義務者が死亡したような場合には,支払義務はなくなってしまいます。養育費とはこのようなものなので,現在の状況のみをもとに,将来の分も計算をして一括払いというのは性質上なじまないところがあります。
裁判や審判などではなく,当事者が話し合いで「一括払い」に合意をすれば,養育費を一括払いとすることも可能です。
ただ,一括払いの合意が成立するは非常に稀です。最大の理由は一括払いは資金面で不可能だからです。子どもが成人するまでの養育費総額はそれなりの金額になります。それを一括で支払うだけの資力がまずありません。また,義務者が,今後自病気をするかもしれない,再婚をして子が生まれるかもしれない,相手(権利者)が再婚するかもしれないなど,将来,何が起こるか分からないのに一括で支払うのは気が進まないと義務者側の事情も理由の一つです。
養育費の一括払は,子が成人間近であるとか,計算上の総額から何割か減額して合意をするといった事情がないと,なかなか合意にいたるのは難しいところです。当事者間で話し合って合意に至れば問題はないのですが,折り合いが付かないときは,養育費の(増)減額を求める調停を申し立てることができ,調停がまとまらないときは審判を求めることもできます。
8.養育費と学費について
算定表で決められる養育費には,公立の学校に通う場合を想定した費用が既に含まれているため,公立の学校の場合は算定表の金額を超えて別途学費の請求は認められないのが原則です。
一方,私立学校の場合は,離婚前の同居時に私立学校に通っていたかによって異なります。同居時に既に私立学校に通っていた場合には,養育費を支払う側(義務者)も私立学校への通学という選択に関与していたのであるから,私立学校の学費も負担することになります。一方で別居後に私立学校に通い始めた場合は,基本的には学費の負担は認められません。義務者が関与できない状態で選択された私立学校の費用を強いるのは酷だからです。
もっとも,別居後に私立学校に入学した場合でも,同居時に既に私立学校への入学を義務者が承諾していたと認められるような場合には,私立学校の費用の負担も認められます。例えば,小学生が同居時に私立中学受験のための塾に通学しており,義務者も塾の面談や進路相談に参加をしていた場合などは,実際に合格をして通学を始めたのが別居後であっても,私立中学への進学を選択することに義務者も関与していたと評価できるため,学費の負担が認められます。
費用負担の割合は,私立学校の通学のために必要な金額から,算定表にて公立学校に通った場合の教育費として考慮されている金額を差し引いた額を,父母の収入に従って按分するのが一般的です。