定年退職を機に離婚を進めるべきか?2023/02/23

 

 

コラム(大川B)

 

 

配偶者(夫のケースが多いので、以下では「夫」と言います)の定年退職が離婚に向けて動き出すきっかけとなることが少なくありません。

 

なぜ、定年退職がひとつの区切りになるかというと、

・定年後は夫と関わる時間が増えるため、夫との関係性がよりシビアに問われること

・退職金が財産分与の対象となり得るところ、夫が受け取った退職金の行方が気になること

・定年退職後は夫の収入が大きく減少することがあり、定年前までとは家計収支や家計管理が変わり得ること

といった事情が考えられます。

 

それまでは夫に対して不満があっても日常的に接点が限られていたため、やりすごすことができていたけれども、定年後は夫と対峙する機会が増えてしまい、妻がそれに耐えられないというものです。

 

そのような妻の思いを夫は全く理解しておらず、むしろ定年退職後は妻とのコミュニケーションを深めたいと楽天的に考えていることも多いです。

また、夫の方も、それまで不和が続いていて、今後互いに支え合うことが期待できないと見切りをつける時期がこの定年退職となることもあります。

子どもがいる夫婦でも、この頃には既に社会人となっていたりして、子どものために離婚を回避する必要がなくなっているといった事情もあります。

 

このように離婚を考えている人にとっては、定年退職を迎えることは、実際に動き出すタイミングとなり得ます。

 

離婚後の生活設計を立ててから

しかし、離婚後の生活設計が立たないままに勢いで離婚することは危険です。

よりよい人生を送るために離婚したのに、より大変な人生になるのでは本末転倒です。

 

とりわけ、

①離婚時にいくらの財産があることになるのか、

②離婚後の収入の目処、

③住居がどうなるのか

が重要なポイントになります。

 

①については、自分名義であるなどして自ら管理している財産の確認はもちろんのこと、相手方の財産状況をどの程度把握することができるかが大切になってきます。

なお、結婚後であっても、相続した財産などは「特有財産」と言って財産分与の対象になりません。

 

もっとも、特有財産であることを相手方が認めてくれず、また立証することもできないときは、夫婦の共有財産として扱われることもありますので、注意が必要です。

まとまった退職金を受け取る場合、これも財産分与の対象となりますので、おおよそでもいいので、いくらぐらい退職金が支給されるかも把握しておきたいところです。

 

なお、退職金の全てが夫婦の共有財産になるとは限りません。婚姻前から働いている場合は、婚姻期間分・同居期間分のみが対象になると考えられています。このことも踏まえて退職金の分与がどれくらいになるかも知っておきたい情報となります。

このようにして財産分与としてどれくらいの財産を得ることになるかを知っておくのが望ましいです。

 

②については、ご自身の収入が柱になりますが、仕事をしていない場合や給与が少ない場合は、将来支給される公的年金も視野に入れつつ、生活の目処をシビアに確認する必要があります。

 

離婚が成立するまでは、相手方に給与収入や事業収入、年金収入などがある場合は、婚姻費用の支払を受けることもできます。

その金額は双方の収入によって決まってきますが、相手の収入が下がれば婚姻費用も後から変更されることもあります。

 

③も重要で、現在の家に住み続けることができるか、賃貸になるのか、実家や相続した不動産があって住居費がかからないかによっても、状況はずいぶんと違ってきます。

 

どうやって離婚の話を進める?

このようなことを冷静に点検したうえで離婚に踏み切る方が手堅いです。

そのうえで離婚を決意した場合、ご自身で相手と対峙して協議をするのが本来の姿であるのかもしれません。

 

ただ、長年にわたってモラルハラスメント(モラハラ)の言動を受けてきたような場合は、とても一対一でこういった話などできないのが現実です。

また、なかには「夫婦の財産」という認識はなく、退職金をはじめそれまでに築いた財産は自分のものであると考えている人もいます。

そのような相手とがんばって協議しても良い方向では話は進まないでしょうし、精神的にも疲弊するだけです。

このような場合は、共通の知人や親族(親やきょうだい、時には自分たちの子ども)に間に入ってもらうことも考えられます。

 

ただ、なかなか適切な人がいないのが現実で、そのような場合は、思い切って離婚事件に精通している弁護士に依頼することが考えられます。

 

弁護士を立てる、さらには調停を申し立てるといった手立てを早めに講じる方が解決も早くなることが少なくありません。

それは相手も行き着く先が見えてくるからで、ふたりで漫然と話し合うのとは違うステージに入っていることを実感するからです。

また、弁護士を代理人にすると相手との窓口が弁護士になるので、精神的にもずいぶんと楽になるというメリットもあります。

 

そして、弁護士に依頼する場合は、相手が退職金を使い込んでしまう、隠匿してしまうおそれがある時は、裁判所の手続をとって、実際に支給されるまでに退職金を仮差押え(実際に支給されることが阻止できます)をすることも検討しなければなりません。

 

一気に紛争が激化しますが、退職金以外にめぼしい財産がないような場合はやむを得ない措置となることもあります。

 

                                                     弁護士 大川 浩介

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