夫の不貞,熟年離婚,A子さんの選択 2016/10/7
コラム 85 夫の不貞,熟年離婚,A子さんの選択 2016/10/7
ところが,ある日,実は夫が数年前から不貞行為をしていたことが判明しました。当然A子さんは怒り心頭。夫はA子さんに謝罪し女性とは別れました。
しかしA子さんの怒りはおさまりません。夫とは仲が良いと思っていただけに裏切りがどうしても許せません。A子さんはついに離婚届を夫につきつけました。
夫は,最初は,離婚はイヤだ,許してくれと反省の弁を述べていましたが,A子さんから怒りをぶつけ続けられ夫の方も我慢できなくなり,二人の間ではケンカが頻発しました。
ある日二人の間で激しい怒鳴り合いとなり,A子さんはついに家を出てしまい2人の間は完全に破綻してしまいました。
「離婚後の生活はなんとかなるわ」とA子さんは楽観的でした。
A子さんはずっと専業主婦でした。10年程前から特技の習字を教えることはありましたが,収入は小遣い程度にしかならない金額です。
夫と住んでいた自宅は夫が相続で譲り受けたものなので財産分与の対象外です。
家計は自営業をしていた夫に任せていたのできちんと把握していませんでした。
心配する子ども達には,「まあ,預金の半分と慰謝料と年金分割をしてもらえばなんとかなるわ」とあくまでも明るいA子さん
しかし夫から預金額を聞いて愕然としました。ほぼ預金がないのです。
また夫の収入も思っていたよりもずっと少ないものでした。夫によると子ども達も独立したので仕事を減らしてここ数年は日々の生活に困らない程度にしか仕事をしていなかったそうです。この年齢から再び顧客を増やすのは不可能です。
そして自営業者なので国民年金であり年金分割もありません。
ここまでの事実が判明して,子ども達は「元のサヤにおさまらないか?」とA子さんと夫をとりなしますが,覆水盆にかえらずです。
A子さんは夫の不貞が判明してから1年もたたないうちに離婚しました。
習字を教えた収入と,夫から毎月分割で支払われる慰謝料,子ども達からの援助で何とか生活しています。
夫からの慰謝料の支払いが終わる頃,年金の受給が始まります。しかし,習字はいつまで教えることができるか分かりませんし,子ども達が結婚・出産すると今まで通りの援助を受けることが難しくなるので,A子さんは不安でしかたありません。
婚姻関係というのは,もちろん夫婦の愛情により成り立つものですが,生きていく上での経済的基盤になっているという面も頭においておく必要があります。
「もう離婚したい」と思ったら,相手に離婚を切り出す前に一度立ち止まって,離婚をしても生活をしていけるのかを検討した上で,選択をしていただきたいと思います。
弁護士 辻 祥 子
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