悪意の遺棄にあたりませんか? 2019/07/16

 

 

コラム20190716

 

別居を始めるかどうか迷っている方から,「夫(妻)に黙って家を出たら,「悪意の遺棄」をしたと言われせんか?」と相談されることがあります。

 

たしかに,民法上は,「悪意の遺棄」(770条1項2号)を離婚原因として定めており,この事由があると判断されると,家を出た側が有責配偶者(※婚姻の破綻を招いた者)ということになり,かえって,離婚請求が認められにくくなってしまいます。

 

しかし,「悪意の遺棄」とは,正当な理由のない同居・協力・扶助義務の放棄を意味します。
また,「悪意」とは,“倫理的に非難される”ことです。

 

そして,別居の原因が夫婦の一方にしか存在しない事案は稀であり,別居した側に“正当な理由がないとはいえない”ケースが多いようです。

 

実際にも,離婚原因として,「悪意の遺棄」を単独で認めた裁判例は少ないです。

 

例えば,夫が妻に対する暴力に加えて,不貞行為に及び,さらに,不貞行為を継続するために妻子に安定的な住居や経済的基盤の確保もせず,十分な婚姻費用の分担もないまま家を出て,その後も不貞関係を継続した事案においてでさえ,妻からの「悪意の遺棄」と「不貞行為」の主張に対し,裁判所は,「悪意の遺棄」を明確に認定せず,「不貞行為」の事実とあわせて,夫の有責性を認定しました。
【大阪高判平成26年12月5日】

 

このように,別居した側に「悪意の遺棄」が認定されるケースは稀ですが,高齢や持病のために単独では生活できず看護が必須の夫(妻)を放置していく場合には,「悪意の遺棄」が認定される可能性もあります。

 

夫婦の状況を丁寧に把握したうえで,別居を開始することが「悪意の遺棄」に該当するか,検討する必要があります。

 

弁護士 中 村 友 香

 

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