離婚に向けて別居を検討している方へ

別居は,離婚に向けての重大なステップであると位置づけることができます。

それまでは離婚問題がまだ抽象的であったとしても,別居することで離婚が一気に具体的で現実的な問題になります。

それまで何年経っても離婚の話が一向に進まなかったような場合は特に別居することによって離婚に向けて正式にカウントダウンが始まると言えます。

 

しかし,だからと言って,早く離婚したいがために直ちに別居を敢行すべきかどうかはケースバイケースで考える必要があります。

 

  • 別居する場合の注意点

  • ①別居することは伝えた方が良いのか?

  • 状況が許す限り事前に伝えた方がよいと答えています家族が,事前に何の連絡もなく帰ってこなくなる,というのは当事者にとってはかなりの衝撃です。離婚を念頭において別居をする場合には,その後に離婚についての話し合いをしなくてはいけませんが,この別居の際の衝撃が,後の離婚の協議によろしくない影響を及ぼすことが少なくありません。後の話し合いのためにも,できる限り筋を通して別居をすることをおすすめします。ただ,ここでいう「筋を通す」は,「別居すること及びその理由を事前に伝える」ということで十分であり相手が納得することまでは不要です。

  • 例外として,別居することを事前に伝えたら相手から別居を妨害されそうな場合,暴力など危害を加えられそうな場合には,事前に知らせることは避けた方がよいでしょうその場合は,置き手紙やメールなどで事後的に家を出ること及びその理由を伝えましょう。

  • 事前に伝えるとして,どのタイミングがよいかは,個々の状況によります。別居を告げたときの予想される相手の反応,別居までの準備期間,別居時の想定しうる状況などを聞いて,どのタイミングでどのような方法で伝えるかを相談者の方と一緒に考えています。

  • ②何を持っていったらよいのか?

  • 自分や子供名義の預金通帳とキャッシュカード,銀行届出印,投資信託や株を保有している場合はそれらの関連書類,生命保険や医療保険の保険証券,実印,印鑑登録カード,パスポートなど重要書類や貴重品は必ず持ち出して下さい。

  • また,衣服などの身の回り品も可能な限り持ち出して下さい。もっとも,転居先のスペース等の事情から持ち出せるものが限られている場合は,まず優先すべきなのは,自分や子ども名義(子どもも一緒の場合)の預貯金の通帳,キャッシュカード,届出印,生命保険や医療保険などの保険証券,その他自分名義の財産に関する書類、健康保険証,マイナンバーカード等です。

  • 離婚を前提として別居をする場合,相手が自宅の鍵を取り替えてしまい自宅に入れなくなることがあります。また,鍵を取り替えていなくても無断で自宅に入ると住居侵入罪に該当してしまうこともあります。(例え自宅が自分名義であっても住居侵入罪が成立することがあるので要注意です)ですから,別居をする際には「もう二度とこの家には入れないかもしれない」という可能性を頭に入れて,今後の生活に必要な身の回りの物は可能な限り持ち出して下さい

  • それと,意外な盲点がアルバム,ビデオ,友人の住所録(年賀),思い出の品などです。貴重品や身の回り品ほど生活必需品ではないのでついつい持出リストから漏れがちですが,これらは代替が効かないものなので忘れず持ち出して下さい。

  • ③相手名義の預金はどうしたらよいのか?

  • 婚姻中,自分が相手名義の通帳も預かって預金を管理していたような場合には,事実上,持ち出すことができてしまいます。しかしながら原則的には相手名義の預金を持ち出すことは不可ですもっとも,自分の預金がほとんどないような場合には,相手名義の預金を持ち出して後に財産分与の際に持ち出した分を清算するという形で解決する例もあります。中には,慰謝料の支払いを確保することを考えて,相手名義の預金から慰謝料相当額分を引き出して持ち出したという例もないわけではありません。

  • このあたりは難しいところです。相手の性格によっては預金の持ち出しは心理的な反発が非常に強く,後の離婚協議に悪影響を及ぼす場合があります。相手名義の預金の持ち出しについては慎重に考えた方がよいでしょう。

  • 悪意の遺棄について

  • 別居を始めるかどうか迷っている方から,「夫(妻)に黙って家を出たら,「悪意の遺棄」をしたと言われせんか?」と相談されることがあります。たしかに,民法上は,「悪意の遺棄」(770条1項2号)を離婚原因として定めており,この事由があると判断されると,家を出た側が有責配偶者(※婚姻の破綻を招いた者)ということになり,かえって,離婚請求が認められにくくなってしまいます。しかし,「悪意の遺棄」とは,正当な理由のない同居・協力・扶助義務の放棄を意味します。また,「悪意」とは,“倫理的に非難される”ことです。そして,別居の原因が夫婦の一方にしか存在しない事案は稀であり,別居した側に“正当な理由がないとはいえない”ケースが多いようです。

  • 実際にも,離婚原因として,「悪意の遺棄」を単独で認めた裁判例は少ないです。例えば,夫が妻に対する暴力に加えて,不貞行為に及び,さらに,不貞行為を継続するために妻子に安定的な住居や経済的基盤の確保もせず,十分な婚姻費用の分担もないまま家を出て,その後も不貞関係を継続した事案においてでさえ,妻からの「悪意の遺棄」と「不貞行為」の主張に対し,裁判所は,「悪意の遺棄」を明確に認定せず,「不貞行為」の事実とあわせて,夫の有責性を認定しました。

  • 大阪高判平成26年12月5日

  • このように,別居した側に「悪意の遺棄」が認定されるケースは稀ですが,高齢や持病のために単独では生活できず看護が必須の夫(妻)を放置していく場合には,「悪意の遺棄」が認定される可能性もあります。夫婦の状況を丁寧に把握したうえで,別居を開始することが「悪意の遺棄」に該当するか,検討する必要があります。

  • DV・モラハラを受けている場合

  • 相手からドメスティックバイオレンス(DV)やモラルハラスメント(モラハラ)を受けている場合は,これ以上,その被害を受けないために,早く別居した方がよいと一般論としては言えます。ただ,DVやモラハラは家庭内で行われるため,これを証明することがむずかしいケースが多いです。同居中であるからこそ,その証拠を確保することができることもあり,状況によっては,この証拠をつかんでから別居することも検討しなければなりません。

  • また,ほかにも,同居しているうちに様々な情報を得ておく必要があるケースも少なくありません。不動産や相手方名義の財産に関する資料,相手の収入に関する資料,相手の不貞行為を裏づける資料などは,同居中の方が格段に収集しやすいはずです。

  • この点,不貞行為の証拠は,別居後にも探偵に依頼して入手することもできますが,同居中からの証拠がある方がベターです。これらの資料をどの程度収集すべきか,収集のしかた,そして,収集した資料で十分かどうかについては,離婚問題に精通した弁護士に相談して確認なさることをお勧めします。

  • >>モラハラの被害者がとるべき行動

  • 子どもがいる場合

  • また,お子さんがいる時は別居について特別な注意が求められます。後々,親権や監護権が争いになる可能性がある場合は,一方的にお子さんを連れて別居することにはリスクを伴います。もちろん,転校を伴うようなことがあれば生活環境を一変させることになるので,お子さんのケアも重要になってきます。

  • また,相手との面会交流についても考える必要があります。このようにお子さん,特に小さいお子さんがいる場合は,別居の難しさが格段に増すケースがありますので,この点についても弁護士と相談して慎重に検討することをお勧めします。

  • そして,別居の際に家財やご自身の私物をどこまで搬出すべきか,物理的に搬出できるかも問題になります。いったん別居すると今後は自由に出入りすることができなくなることもありますので,ご自身の私物はできるかぎり別居の際に全て搬出した方が無難です。また,家財については,それが夫婦の共有財産であれば,持ち出すことが許されないわけではないと言えますが,相手の生活に重大な支障を来すことになると,このことが影響してスムーズな離婚協議の妨げになることも考えられます。

  • 婚姻費用について

  • そして,別居後の婚姻費用については,請求する側も,支払う側も,重要な問題になります。まず,請求する側は,別居後の生活設計が成り立つかを慎重に検討する必要があります。婚姻費用の支払が(すぐに)受けられない場合であってもやりくりができるか,協力してもらえる人がいるかの検証は必須です。特にお子さんを伴っての別居の場合は,生活レベルが一時的にせよ落ちてしまうと,お子さんに強い負荷がかかることが懸念されます。高額の婚姻費用の支払が確実に得られる場合は,別居することは離婚のきわめて有効な手段になりますが,婚姻費用に強い不安があるときは別居を続けることもできなくなって,やむなく別居を解消する,あるいは不利な条件で離婚することになるといった結果になりかねないので,細心の注意を払う必要があります。

  • 他方,婚姻費用を支払う側も,別居してご自身の住居費もかかるときは,経済的に困窮するケースもあります。殊に,ご自身が相手が住み続ける自宅不動産の住宅ローンや相手が乗り続ける車のローンの債務者となっている場合は,これらのローン負担をそのまま婚姻費用から引いてもらえるわけではないので,ご自身の別居生活が成り立つかを見極めてから別居する必要があります。

  • また,別居して婚姻費用を支払うことになった方が相手にとって経済的に有利になる場合は,別居することで離婚までの道のりが長期化することもあり得ます。

  • 以上のように,別居に伴う注意点は多岐にわたりますが,一度別居すると引き返すこともむずかしいため,別居に先立って,弁護士に相談することをお勧めします。

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