少しじっくり考えたらいかがでしょうか?-離婚は本気ならばクールに- 2016/9/23
コラム 81 少しじっくり考えたらいかがでしょうか?-離婚は本気ならばクールに-2016/9/23
離婚の法律相談にお越しになる方の離婚の決意の度合いは人によって異なります。
数年前,若い女性が「離婚したい」と相談に来られました。生後数ヶ月の子どもを抱いておられました。理由は夫の不貞。夫は謝っているがもともと夫には信用できない面がある。
ご本人は一刻も早く離婚したいとおっしゃいます。
しかし生後数ヶ月の子どもをかかえてアルバイトを育休中の身で金銭的な基盤が心配な状態です。まとまった預金もなし,養育費も算定表上は少額です。
私が「新居を借りる際の費用や離婚後の生活は大丈夫ですか?」と聞くとご本人は「先生,不貞相手の女性に慰謝料を請求して下さい。とりあえず手元にある金銭で引っ越しして,翌月からの家賃は慰謝料で払っていきます。慰謝料がなくなる前に子どもを保育園に入れて仕事に復帰します。」 とおっしゃいます。
確かに法律上は不貞相手の女性に対する慰謝料請求権はあります。しかし,実際にそれにもとづき金銭が手元にくるのかは別の問題です。
ご本人のこのような発言に思わず「もう少しじっくり考えたらいかがでしょうか?」と言ってしまいました。
私は弁護士なので,基本的にはご本人の決断にアレコレとは言えない立場です。
離婚する気満々のご本人は私の言葉に不満気です。
不貞相手の女性の年齢や職業から慰謝料がとれるかどうか不確実な面があること,とれたとしても別居や離婚後の生活を支えるほどの金額にはならないこと等を説明しました。
もう一緒に住みたくない,離婚したいという気持ちは分かるけれど,本気で離婚したいのならば準備も本気でしないと,気持ちだけで突っ走って離婚してその後の生活で不自由してしまったら後悔してしまう,といったことを話しました。
ご本人は,不満気な表情のまま帰って行かれました。
その後も「どうしたかな」と時々思い出すことがありました。
その方が,数年たってふたたび相談にお越しになりました。
新たな相談の内容は…
その後,夫とはだましだましやってきたが,やはり離婚を決意した。
夫も離婚を受け入れている。現在,養育費と財産分与について話し合っているがおおむね合意できそうだ。最後に,この養育費や財産分与で問題ないか先生に確認して欲しい。
といったものでした。
数年前のことは「あの時,あわてて離婚しなくてよかった。」とおっしゃいました。
「あれから夫のことを見直せたらいいなあと思いながら,一方で離婚しても大丈夫なように準備を進めながら生活してきました。昨年ちょっと色々あってもう無理だと思いました。」
数年前の相談の後「離婚するなら仕事が大事」と思い,子どもがある程度成長するのを待って正社員の職を探したそうです。この数年間でいくらか預金もできています。離婚後の住まいについても準備済みです。
数年前とは離婚後の状況は大違いです。
数年前もご本人にとっては「本気の決意」だったのだと思います。しかし離婚後の生活プランの脆弱さを考えると感情的に離婚を思い立ったという面は否めませんでした。このような決意をそのまま実行してしまうのは危険です。
本気で離婚を決意したのならば,クールに,淡々と準備を進めましょう。
弁護士 辻 祥 子
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