退職金の財産分与
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退職金は財産分与の対象になるのか?
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退職金は賃金の後払いの性質もあるところ,妻のサポートがあったからこそ働き続けることができたと考えられることから,やはり夫婦で築いた財産として,財産分与の対象となりえます。配偶者のサポートがあったからこそ働き続けるけることができたと考えられるので,退職金がまったく財産分与の対象とならないとすると不公平です。
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裁判所では,退職前の退職金が財産分与の対象となるか否かは,離婚の時点で将来退職金が支払われることがどの程度確実に見込まれるかという観点から考えています。退職金の支払いの確実性は,退職までの年数(①),勤務先の属性(②)の二要素から判断されます。
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①は,当然ながら退職までの年数が短いほど確実性が大きくなります。
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②は,勤務先の倒産の可能性,業績変動の可能性などから,公務員,大企業などは確実性が大きいと考えられ,中小企業は確実性が小さいと考えられます。
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実際に離婚事件を担当している経験の中では,勤務先が国や地方公共団体(公務員)や独立行政法人の場合は,40歳代半ば(定年退職まで十数年)であっても裁判所は退職金を財産分与の対象としています。一部上場の大企業の場合も40歳代後半で財産分与の対象としてます。このように勤務先が倒産したり業績の影響で退職金がなくなる危険が小さい場合は,40歳代であっても退職金を財産分与の対象とする判決が言い渡されています。もっとも,既に退職金の支給を受けて夫名義の預金となっている場合は,この預金自体が,夫婦の実質的共有財産であるとみることもできます。
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では,定年までにはまだ数年あり,退職金を実際に受け取るのが数年先であるような場合はどうなるのでしょうか。このような場合,退職金は離婚の時点では現実化していない財産であるものの,将来受け取ることがほぼ確実なのであれば,財産分与の対象に含まれないとすると極めて不公平な結果となります。
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実際の裁判例を2件ご紹介しましょう。
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【裁判例①】6年後に夫が定年退職するケースで,即時に妻に財産分与として支払うことを命じたものがあります【東京地判平成11年9月3日】。夫婦の実質的な婚姻期間に対応する分につき,6年早く受け取れる点を割り引いた金額の5割の分与を認めています。
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【裁判例②】8年後に定年退職するケースで,実際に退職金の支給を受けたときに支払うことを命じた事例もあります【名古屋高判平成12年12月20日】。この事例では,現時点で自己都合で退職した場合の退職手当金額をベースとして金額が算出されています)。 退職金は高額にのぼることが多いこともあり,協議や調停などで紛糾することが珍しくありません。そのような場合は,どのような根拠で,いくら請求するか(反対の立場であれば,いくらなら支払うか)について弁護士に相談されることをおすすめします。
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退職前の退職金はいくらを分与するのか?
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退職金の財産分与額はどのように算定するのでしょうか?また,いつ分与させるのでしょうか(離婚時or退職時)?
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この点,過去の裁判例には様々なものがありますが,最近は,以下のような判断内容が定着しつつあります。
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【分与額】
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別居時点に自己都合退職した場合の退職金額×同居期間÷別居時までの在職期間×分与割合(原則0.5)
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【分与時期】
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離婚時
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夫53歳,22歳から地方公務員として勤務,32歳で結婚
妻48歳,専業主婦
1年前(夫52歳)から別居
別居時に自己都合退職した場合の退職金900万円 -
この設例ですと別居時点での夫の在職期間は30年,同居期間20年なので分与する退職金は
900万円×20年÷30年×分与率(0.5)=300万
⇒夫は300万円を妻に分与する -
具体例では,計算を簡便にするために同居期間や別居までに在職期間を年単位としましたが,実際の裁判では,より厳密にするために月単位で算出することが多いです。
解決事例(財産分与)
財産分与に関する弁護士費用
財産分与に関する詳しい記事はこちら
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姉小路法律事務所
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