子が33年間無戸籍であった理由-母親への過料が取り消された決定- 2016/1/29

 

コラム17(20160128).jpg

戸籍法では,出生届けは14日以内(国外で出生があったときは3ヶ月以内)に提出しなければならないとされています(戸籍法49条)。正当な理由なく期間内に届出をしない場合は,5万円以下の過料に処せられます(同法135条)。

暴力を振るう夫に居所を知られることをおそれて,娘の出生届を戸籍法の期間内に提出しなかった女性に昨年8月藤沢簡易裁判所が5万円の過料に処するという決定をしていましたが,今月19日,横浜地方裁判所は,この決定を取り消し罰に処しないとの決定をしました。

女性は,前夫の暴力から逃れるために1980年に家を出て,2年後に新たな交際相手との間に娘をもうけました。この時点では,女性はまだ前夫と離婚は成立しておらず女性は前夫の戸籍にはいったままでした。
このような状態で子どもの出生届を提出した場合,前夫の戸籍上に子の出生が記載されることになり,母や子の居所が前夫に知られてしまうおそれが生じます。女性は,前夫に居所を知られることを避けるため,娘の出生届を提出しませんでした。

女性は,2014年に前夫と離婚が成立し,2015年に娘の出生届を提出しました。それまで娘は33年間無戸籍の状態でした。 出生届を受けた自治体が,出生届の提出が戸籍法で定める期間をすぎているとして簡易裁判所に通知し,簡易裁判所が女性に5万円の過料の決定を下していました。

この決定に対し女性は即時抗告をしました。抗告審で横浜地裁は,「届け出ることで前夫に女性らの住所などを知られ,生命を脅かされるおそれがあった。」として期間内に届出しなかったことに「正当な理由」があると認めました。

今でこそ,DVの存在が一般に認知され,配偶者等の暴力から身を守る様々な方策が用意されていますが,33年前といえば,DVという概念も一般的ではなく,暴力からは自分で身を守るしかなかった状況だったと思います。女性が前夫に居所を知られるのをおそれて子どもの出生届を出せなかったということも想像に難くありません。そのための代償(子の無戸籍)は大きいものではありましたが。

戸籍法では,過料に処する要件として「正当な理由なく期限内に届出をしない場合」と規定されています。そもそも子どもの出生届を受けた自治体の方で,女性が届出期間を守ることが出来なかった事情を勘案し「正当な理由があった」として裁判所に通知しないという扱いをすべきであったし,実際にそのような扱い(裁判所に通知しない)をしている自治体もあるのではないかと思いました。

弁護士 辻 祥子

バックナンバーはこちら>>

 

The following two tabs change content below.
姉小路法律事務所

姉小路法律事務所

姉小路法律事務所は,離婚,慰謝料,相続・遺言などの家族関係・親族関係の紛争(家事事件)に力を入れている京都の法律事務所です。なかでも離婚・慰謝料事件は,年間300件以上の相談をお受けしており,弁護士代理人として常時数十件の案件を取り扱っております。弁護士に相談するのはハードルが高いとお考えの方も多いかもしれませんが、まずはお気軽にお問い合わせ下さい。男性弁護士・女性弁護士の指名もお伺いできますのでお申し付けください。 |弁護士紹介はこちら
姉小路法律事務所

最新記事 by 姉小路法律事務所 (全て見る)